旅雑記'96 その1 |
2005.2.26公開 |
L'agenda del viaggio |
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名前は忘れてしまったが、
ミラノのDuomoの裏手で見つけたトラットリア。
入り口の扉には食べ放題、飲み放題でひとり3千円というような張り紙があり、世界各国からの絵葉書が壁という壁に貼られていた。
その中から日本語のものを読むと、「お腹いっぱい、美味しいものを食べさせてもらいました。どうもありがとう。」のようなことが書かれていた。おそらく他に貼られているはがきにも同じようなことが書いてあるのであろう。
インターネットによる情報があふれ、店を選別するのに必要な情報に事欠かない現在と違い、当時はせいぜい例の『地球の歩き方』と自分の勘だけが頼りだった。そんな中で、この店で見つけた日本語のはがきは私たちにとっての道標となった。
階段で地下に降りていくと、何組かの先客がいた。私たちは、明らかにドイツ人とわかる5,6人の若者たちの隣のテーブルに通された。いすにふんぞり返り、額に汗する彼らの光景に多少の違和感を覚えたが、そのときはさして気にとめるほどのことではなく、逆にたらふく食べて満足してるんだろう、くらいにしか感じなかった。
席に着くと同時にテーブルの上には、赤、白各1本のワインが、「さあ、いくらでも飲んでちょうだい」とばかりに置かれた。やった〜、ワインで旅の初日を締めくくるぞ〜、などと他愛に喜んでいたのも束の間だった。それが、思いがけない満腹地獄の幕開けの合図だと知るのにいくらもかからなかった。

ほどなくすると、給仕がてんこ盛りになった前菜5品を運んできた。前菜と言っても、そんな洒落たものではなく、野菜の煮込みだの、生ハムの類である。それらを、その給仕は、笑みをたたえながら皿に盛ってくれる。
「お代わりはいくらでもあるからな、せっかく日出ずる国からはるばる来てくれたんだ、俺たちが最高のもてなしをするよ。」
とばかりに。
人の好意に対しては、やはり態度で示さなければならない。出されたお皿はみんなきれいに平らげるぞ。その頃には、隣のドイツ人達の状況も理解でき、腹をくくった。いや、腹をくくったら食べられないので、ベルトをこっそり緩めたのである。
なんとかワインで前菜を流し込む-そう味わうではなくてまさに流し込むという表現がぴったりだった-ことで、なんとか前菜を完食したのだが、そのころには早くも限界と言う2文字が
目の前をちらついていた。
そして、
ニョッキとパスタが運ばれてきたときにはギブアップせざるを得なかった。
しかし、ここで終わりにしてしまっては、給仕の好意を無にしてしまう。せめて、ワインだけでも平らげようと、フラフラになりつつも一人で1本のワインを開けた。
すると、その頃にはすっかり落ち着いて食後の談笑を交わしていた例のドイツ人たちが、空にしたワインに気付き「ヒュ〜〜」と嘯いた。「どお?なかなかやるでしょう?」とひとりごちたのもそこまで。例の給仕が再び赤、白のワインを運んできた。
「とりあえずこれだけでいいかい?足りなかったらまた持ってくるよ。」
そんな声がどこからともなく聞こえたような気がした。
そして、「もう許してください」とばかりに、そそくさと店を出たのである。
ワインを2本平らげたことだけがわずかな戦果だった。
余談であるが、その店に来ていたイタリア人らしき若いカップルは、さもなく出された料理を平らげていた。しかも、あっという間に。私たちが食べた ものと同じものをである。それは、あの体の大きいドイツ人たちをもうならせた量である。イタリア人の健胃ぶりを目の当たりにした一瞬だった。
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